

2015年10月、
西荻窪の街に生まれたRyuiの直営店。
その始まりから今日に至るまでの道のりを、
デザイナー日向と平が語り合いながら振り返ります。
ショップと共に過ごした10年の歩みを、
当時の記憶と今の思いを交えてお届けします。
Contents
1. はじまりの頃
─ 店舗を構えるまでの道のり
2. 小さな空間をつくる
─ 場所選び
3. ショップを彩るものたち
─ 友人たちと形にした店づくり
4. 10年を経て
─ 維持すること、変わりゆくこと
1. はじまりの頃
─ 店舗を構えるまでの道のり

日:振り返ればもう10年という思いと、まだ10年という思いが両方あるな。
Ryui自体が17年目になるので、西荻窪店がオープンしたのはブランドを立ち上げてから7年目だね。
最初の数年は他の仕事もしながらジュエリーと半々くらいだったから、お店はちゃんとジュエリーだけの仕事になって2、3年経った頃だったと思う。
その頃は少しずつオーダーが増えてきながら、自らお客様へジュエリーを見ていただく決まった場所が無い難しさも感じていたので、お店を持つのは自然な流れだった。
平:たしかに当時、ブライダルリングのご案内はホテルのラウンジや喫茶店で、リングサンプルを抱えて行っていたよね。ファッションジュエリーはお取扱いしていただいている店に向けて制作し、あとはコレクションお披露目の展示会を年1〜2回、ギャラリーを借りて。
日:他にも合同展示会に出してみたりとか。最初の頃の展示会では、我々に初めて取扱いのお声がけくださったminä perhonenの皆川明さんとあと知人が数人のみ、みたいな日もあったよね (笑) 。
平:確かに、懐かしいね。そんな風に続けるうちに、ありがたいことに次第にブライダルリングのオーダーも増えてきて。毎回たくさんのサンプルを運んで移動して…という動きが大変になってきて。それで、「小さくてもお店があるといいよね」という話になった。
日:それで落ち着いた空間で、ゆっくり見ていただけるようにしたいねって。
2. 小さな空間をつくる
─ 場所選び

平:お店を持つにあたって、場所選びでは、都心も含めて色々見にいったよね。代官山とか、青山とか。
日:自分たちの住まいが都心よりずっと西の方だったから、リアルなところで吉祥寺とかもね。
平:その頃、私はちょうど長男を身ごもっていた時期で、産後になっちゃうとお店作りに時間がきっと割けないと思って、急ピッチで進めたのを覚えている。
日:大きなお腹で歩いて物件探ししたよね。ただどこもしっくりこなくて悩んでいた時に、皆川さんとの仕事のお打ち合わせがあって。出店の話をしたら、「西荻窪とか、良いんじゃないですか?」と言ってくださって。西荻窪は小さくてこだわりを持った個人店が多いし、吉祥寺よりも落ち着いていて合うんじゃないか、って。
平:ただ、私たちはほとんど西荻窪には来たことがなかったんだけど、行ってみようかって行ったその日に今の場所が見つかった。駅からすぐなのに落ち着いた裏通りに面しているし、静かでいいね、って。
日:規模感もイメージしていた感じで良かった。
平:いいねいいね、って流れるように決まっていった。当初はブライダルリングのご相談ができる場所としてをメインに考えていたこともあって、いらっしゃった方がゆったりと落ち着いて過ごせるよう、静かで奥まった空間を望んでいた。そんな隠れ家的な空間で、まさにぴったりだった。

3. ショップを彩るものたち
─ 友人たちと形にした店づくり

日:空間はすっきりさせたいと思っていて。色々ガラスケースやテーブルなど流通するものの中から探していたけど、最終的には、ほとんどオリジナルで作ることになった。最初は、あれもこれもオリジナルで作ってもらうだなんて想像してなかったけど。
平:店舗設計は、私の大学時代の友人であるMMA Inc.の工藤桃子さんにお願いした。彼女はとてもセンスが良くて、好きな方向性や感覚も近いなと感じていたから、私たちの持つ世界観を汲み取ってしっかり表現してくれるに違いない、という確信があって。予想通り、最初に出してきてくれた設計に対して細かな修正はほとんど入れる必要がない素晴らしいものだった。特に店内のシンボルのように中心に鎮座するブライダルリングのための六角形のショーケースの設計図を見た時は、心がときめいたよね。

日:壁際のショーケースは、真鍮の板を引き出しの取手の穴隠しを兼ねたストッパーにしたり、足元が狭くならないように斜めに脚をつけるようお願いしたり、彼女の設計をもとに自分もアイデアを出して出来上がったもの。
他にも壁面のネックレスを掛けているブロックは、磁石で自由にレイアウトできるようにしたいと、家具作家の友人であるhyakkaの岡林厚志くんにお願いした。自分がサンプル作って、あとはお任せして作ってもらって最後は自分で拭き漆をして仕上げたもの。他にリングトレイも彼の作品。
オープンからずっと使っているお会計トレイも、岡林くんが開店記念にプレゼントしてくれたものだよね。



平:店の外に立てている看板も友人の鉄作家であるOza metal studioの小沢敦志くんが作ってくれたものだし、こうしてみると友人総動員 (笑)。私たちが美大を卒業していることもあって、周りに素敵なものづくりをしている友人が多く、たくさん手助けしてもらった。

日:お店で使っているリング立ても、最初は市販されているものを使っていたけど、綺麗すぎるなと思って。
家の近くの森を散歩している時に枝を拾い集めて、自分で削ってつくったり。
平:什器は自分たちでも結構いろいろ作ってきたね。


日:このふくろうはオープン当初から西荻窪店に飾ってるお気に入り。
平:ふくろうは幸せを運ぶ鳥。ひっそりショップの守り神的存在になってるね。
これは15年以上前、フィンランドに行った時に出会って手に入れたもの。買った時は何も知らなかったけど、仲良くなったヘルシンキのアンティークショップのお兄さんに見てもらったら、いいのを見つけたね!と。1960年代に作られたKaarina Aho (カーリナ・アホ) というフィンランドの作家さんのものだと教えてもらった。
大きいのから小さいのまで家族として作られている作品で、フィンランドに行くたびに探しているんだけど、今はなかなか手に入らない。当時は何羽か見かけたので、もっと連れて帰ればよかったな。
日:表情もいいし、フォルムや質感、またずっしりとした重さも良いよね。

平:こっちの小さなつがいの鳥のオブジェも、フィンランドの蚤の市で買ったもの。作者はわからないけど、すごく近くで寄り添って見つめあっている姿に惹かれて。2羽の顔があまりに近すぎて、内緒話をしているようでかわいいよね。

平:他にも店内の装花は、同じ西荻窪にお店を構えるcotitoさんにお願いしたもの。日向が「普通に綺麗なだけじゃない枝のオブジェがいい」ってリクエストして仕立ててもらった。他にない、すごくかっこいいものを作ってくれて気に入っている。cotitoさんは奥様が可愛いお花のクッキーを作られていて、私もスタッフも個人的に買いに行ったりね。

日:自分は藝大で工芸を学ぶ前に、一時多摩美でインテリアを専攻して志していたこともあり、元々建築やインテリアに興味があって。二人とも好きなことだったから、お店作りは楽しめたよね。
平:そうだね。ただ、限られた空間の中で、いかにデザイン性と実用性のバランスをとったらいいかは難しかった部分。
4. 10年を経て
─ 維持すること、変わりゆくこと

平:振り返ればこの10年、大きな改装って一度も考えたことなかったね。スタッフの皆も常にお店を綺麗に保つことに努めてくれていたから、メンテナンスのみで大きな改装の必要がなかった。
例えば外壁のRyuiのロゴやドアの真鍮部分は、毎日の掃除の一環として、研磨剤をつけた布でしっかりと磨いてもらってる。本来、お手入れしないと真鍮はすぐ真っ黒に変色するんだけど、そのおかげで10年たった今でもキラキラと輝いているのはちょっと自慢 (笑)。
大きな改装が必要ないのは、日々のスタッフの努力の積み重ねのおかげと感謝している。
日:ブライダルリングのご紹介を主な目的に始まったショップだけど、近年はファッションジュエリーを目的にご来店くださる方も増え、もう少しゆったりした空間で見てもらいたいという気持ちも出てきたのも確か。
ただこの小ささゆえに隅々まで気が配られている空間は気に入っている。
丁寧につくったものを、愛着を持って大切に長く使う。そんなジュエリーへの想いと同じ感覚でお店も見ているから、「どんどん新しくしなきゃ」という想いが沸かなかったんだと思う。
平:ブランドも17年を越えて、少しずつつくるものや在り方が変わってきたなと思う。最初はブライダルリングのご案内を中心に考えたお店だったけど、天然石の一点ものを楽しみに来てくださる方も増えて。お客様の姿が少しずつ変化していくなかで、私たちも自然に歩みを変えてきた感じがある。大きく変えるんじゃなくて、その時々の空気を大事にしながら続けていけたらいいなと思う。
ここは原点。小さいながらも丁寧に、気が行き届いた空間であり続け、来てくださった方がよろこびを持って帰ってくださるお店であり続けたい。
日:そうだね。お店ってそういう、「いいな」という感覚で作ったものを「いいでしょ」とお披露目する場所で、お客様に「いいね」と共感してもらう場所だからね。
平:まさにジュエリー越しの価値感の共有ね。
日:そう。だから我々がどれだけ楽しめるか、喜べるかっていうことが大切になるよね。
そこの万年筆でも、コップでも、「いいね」と思う気持ちが入っているとうれしい。
視野を広く、隅々まで神経行き届かせて、どれだけ「自分たちのものにできているか」が大事なんだろうな。
これは何にでも誰にでも言えることだろうね。楽しみを持って「よしやってみよう!」と取り組むのと、逆に「仕方ない、やらねばならぬ」という意識で取り組むのとだと、生まれてくるものの力が全く違うからね。
平:だから什器も自分たちで作るのかも。面白がって作っているから、それを感じてもらえるんだろうね。ものだけ見せようとしているだけじゃないからね。
日:もっと色々楽しみたいね。ジュエリーだけでもまだまだやりたいことが山ほどある。
この人生は、ジュエリーをつくって終わりかな。
平:どうかな (笑)。
日:もっと色々やりたいね。
尽きないね。

日向 龍
Ryu Hinata
東京都出身
東京藝術大学大学院 美術研究科 漆芸専攻 修了
平 結
Yui Taira
和歌山県出身
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科 卒業